神田笹鮨

歴史
店主から
こだわり
お品書き
レシピ
地図
 
当世すし事情   竹屋世兵衛
     
〜目 次〜  
一、暖簾くぐって ・・・・・・・ 1
二、遥かなツケ台    
三、誰が決めた「最初はこはだ」    
四、間 ・・・・・・・ 2
五、江戸前とは言うものの    
六、「旨くて安い」はどんな店?    
七、味のカンどころ ・・・・・・・ 3
  (1) 手間を掛けた鮨ダネ    
  (2) 旬    
  (3) 煮切り    
  (4) お酒と鮨の健全な関係    
八、お勘定!    
九、いい店、印象に残る店 ・・・・・・・ 4
  (1) 神田笹鮨    
  (2) 喜久好    
  (3) そのほか    
十、終わりに    
 (参考文献)    
     
     

   一、 暖簾くぐって

 えーっ,グルメ・ブームなんてことが言われて久しくなっておりますが、中でも変わらず人気なのがお鮨で
すナ。魚偏に旨いと書いて鮨と読みます。たいへん結構な字を当てたもので、周りを海に囲まれた日本の
、取れ立てのお魚を使った代表的なお料理と云うわけで、テレビや雑誌が盛んに特集を組んではブームを
煽っております。
 ホテルや何かのパーティーに行きますと、会場にいろんな屋台が出ております。焼鳥もあれば天麩羅も
ある、立喰そばや飲茶などもあったりして、そのうちに主賓の挨拶が終わって乾杯も終わって、やがてコノ
司会者が「それでは皆様、お一つお召し上がりになりながらごゆっくりご歓談をお願いいたします」てなこと
を申しますと、皆んながワーッとコノ食べ物ンの方へ寄っていきますナ。で、見ておりますとやはり一番人
気のありますのがお鮨の屋台。小さなお皿へ二つ、三つ握ってもらった奴にちょいとこうお醤油をつけまして
パクリ、「ウーン、旨い!やっぱり今日は来てよかった…」。来賓の挨拶なんかもう誰も聞いちゃおりません。
  日本全国といったら分りませんが、少なくとも東京で「あなたの一番好きな食べ物は何です?」と聞けば、
まず十人のうち六、七人までは「お鮨です!ひょっとしたら奢ってくれるの?」なんて目を輝かせて詰め寄っ
て来ますナ。
 テレビや雑誌に煽られるまでもなく,お鮨が美味しいと云うことは皆もう本能的に知っているんですが、ここ
でもう一歩「お鮨が一番ン!」と叫んでいる人の気持になって考えて見ますと、これは味に加えてもう一つ、
鮨の持つ粋な雰囲気と云いましょうか色気といいましょうか、そう云ったものがたいへん大きく影響しております。
 暖簾をくぐってガラリ、店の中へ顔を覗かせると「いらっしゃい」、ボソッとした声で親方が「別に商売なんか
したかねえんだ」みたいな顔でツケ場に立っております。そんなことには構わずいつもの席にスッと腰を下ろ
す。お絞りが出る、お茶が来る。やがて俎板を拭き終った親方が「今日は何から?」 「ウーン,かすごから貰
おうかな。それからお仕舞はネ、いつもと同じにヅケで願いますよ」なんて、傍の者ンが聞いてもよく判らない
ことを言いながらつまむ握りのお鮨。味のほかにもう一つ、こう云った粋なやり取りがお鮨を一層魅力的にし
ているんですナ。
  ところがこの粋でいなせな鮨なるものを、いざ自分で実行しようとなるとなかなか面倒なものだとすぐに気
がつきます。第一どこへ行けばそう云う結構なすし屋に巡り会えるのか?ガイドブックやインターネット、手掛
りはいろいろあるんですが、とどのつまり「○○寿司は美味しい」と云うことは書いてあっても、客としてどんな
扱いを受けるのかは、どーもよく分らない。
 加えてこの商売には昔から「親父がガンコで常連がえばっていて勘定が高い」と云うあながち見当外れで
もない噂が付きまとっていますから、折角お目当ての店の前まで行きながら、そこを通りこして三軒先のラー
メン屋へ入っちゃったりする。そオいった事がよくあるもンでございます。
 鮨への憧れはありながら何故かためらうこの気持ち。もう少し気軽にすし屋の暖簾がくぐれればなあ。そん
な思いを抱きつつ回転寿司や持帰り寿司で鬱屈しているオジさんも多いはず。かつて自分もその中にいた一
人として何か解決の糸口はないものかと、探し歩いているうちに何時しか自分でこんなレポートを書く羽目に
…。ご笑読いただければまことに幸いでございます。

   二、 遥かなツケ台

 いい食べ物屋さんの三大条件てのがありますナ。味が良くてくつろげる雰囲気でお値段が適正と云う。
ところがおすし屋さんでこれが三つとも揃った店はまことに少ない。
 中でも面喰うのが雰囲気ですナ。庶民的な食べ物屋を標榜するわりには店構えが少々近寄りがたく、気軽
に「いらっしゃい」と云うメッセージが伝わって来ない。
 入口は申し合わせたように磨りガラスに細い桟をはめた引戸。店内は窺いようがありません。一部だけでも
透明ガラスにして中の様子が分れば、お客は余ほど入り易いと思うのですが、そう云う店はまず皆無。
気力を奮い起こして中に入って見ますと、これは高級店に多いんですが、なんと云うか店の方が客を値踏み
するようなところがありますナ。場合によっては「この客はウチの店は無理だ」なんてンで、席は空いているの
に断られたりする。わたくし筆者も一ぺん数寄屋橋のさる有名店で、そんな目に遭ったことがありますが、ま
ことに腹の立つものですナ、あれは。
 じゃあ、もう少し庶民的な店はどうだろう?とそちらへ行って見ますと、こちらにはこの道何十年のベテラン
がデーンと控えておりまして、駆け出しの一見客なんかはもう内務班の初年兵みたいな気分。
自分のイメージじゃあ、ガラッと戸を開けると「いらっしゃい」の声に迎えられてツーッと居心地のいい席に着け
るはずなんですが、実際にはそんな池波正太郎みたいな訳には行かず、ここで皆んな途方に暮れておりま
す。
  こりゃどう云う訳だろう?鮨組合の方でこの辺を少し考えたら、もっと客も来るんじゃないか?そんな口出し
もしたくなります。
 しかし見方を変えると、この取っ付きの悪さが一旦その中に入り込んだ後の居心地の良さに繋がっている
んですナ。
 その店の永年の客あしらい、常連が醸し出す雰囲気、親方の個性、こう云うものがなければ"鮨の粋"は生
まれて来ない。これは、誰でもいらっしゃいの回転寿司に"粋"は無縁なのと裏腹です。
 それなら、鮨の楽しみはこの取っ付きにくさを受け入れることから始まるんですナ。と云って何か難しいこと
が要るわけじゃない。初めての店では初対面の相手に対する当たり前のマナー、「よろしくお願いします」と
云う素直な気持で素直に振舞う。これだけです。
 不慣れを恥じる必要もなく、分らないことは素直に「何ですか」と聞けばいい。間違っても「俺は客だ」なんて
野暮と、知ったかぶりだけはお断り。これが鮨の世界の扉を開く唯一つのカギと申せましょう。
 そうなると店の方もそこは永年のカンと経験、初めてのお客さんにはサービスやお勘定の面で常連よりも余
ほど気を使います。(そうでない店には、二度と足を運んじゃいけません)。こうして初回の感触が良かったら
余り日を置かずに裏を返して、三回目から馴染みとなる。これが江戸時代に全盛を極めた某所の作法だった
そうですが、こうして何回か通っているうちにお客と店の仲が次第に打解け、いつしか落ち着ける店になって
行く。鮨を楽しむ第一歩はまずここからでございます。

   三、 誰が決めた「最初はこはだ」

 こうして首尾よくカウンターに腰を下ろしまして、次に雰囲気と云うか居心地と云うか、そお云ったものに大
きく影響するのが「あれ握って、これ巻いて」と云う注文、これがスムーズに行くかどうかと云うことですナ。
「注文なんてお前、自分の食べたい物を握ってくれって頼むだけじゃねえか」と息巻く方もありますが、それは
場数を踏んで初めて言える科白。これがわけなく出来るようになれば、そろそろ名取りのお免状も頂けるくら
いのもの。
 人によっては「初めての店ではテーブル席で並の握りを一人前頼むのがよい」と控え目に仰言る方もありま
すが、すし屋の暖簾をくぐるからにはやはりカウンターに坐って「○○下さい」とやってみたいのが人情。また
そうしないと鮨力(すしぢから)も身に付かない訳でして…。
 しかし不慣れな身分でこれをそれらしくやりたいとなると、論文が一つ書けるくらいの難しいテーマでござい
ます。 まずはケースに並んでいるあまたの鮨ダネをどんな順番に頼めば、「この客少しは出来るナ」と云うこ
とになるのか?
 よく物の本に「鮨はもともと自由な食べ物であるからして、なんでも自分の好きな物から食べてよろしい」て
なことが書いてありますが、だからと言っていきなり「トロ下さい」では少々野暮だな、くらい分りますから「そ
れなら何から行くかな。とにかくこの第一声で多少覇気のある客だと云うことをを示したいな。エーとエーと・・
・」なんて、見栄まで加わるからなおややこしい。
「そりゃあアた、江戸前はこはだに決まってますヨ」とばかり、年中こはだ一本槍で始める方もお見かけします
が、こはだは元来秋から冬のお魚。旬をきちんと守っているお店なら、だんだん暖かくなって卵を持つようにな
れば、あじと入れ替わりにタネケースから姿を消す、くらいは心得ていたい。
ま、何から始めてどんな順に食べるかについては、味の淡白なものから濃いものへ進む一応標準的とされて
いる順番(例・白身→光り物→貝、いか→煮物→まぐろ→巻き物→玉子など)を覚えておいて、そこへ季節ご
との魚を当てはめて行く。そんなところから始めれば、余計な緊張もしなくて済みますし怪我も少ないはず。
中には鮨ダネを並べたタネケースも無ければ、「本日出来ますものは…」のタネ札も掛っていない実力テスト
みたいなお店もございます。
 そんな時も慌てずに済むよう、ここは多少本屋さんに月謝を払って、鮨ダネや旬のお魚の予備知識を仕入
れておく。そうすればカウンターにも落ち着いて坐っていられますし、職人さんとのやり取りに弾みも付こうと
云うもの。楽しくお鮨を頂くためには、前もっての勉強も大切でございます。


 

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