明治36年(1903年)創業の正統江戸前寿司屋です。

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たかが海苔・・・されど海苔

最近仕入れた海苔に異変がありました、、、、

弊店の使用する海苔は先祖代々の付き合いである海苔屋さんから仕入れております。余談ですがその海苔屋さんは日本橋に魚河岸があったころからの老舗です。

その海苔屋さんから最近仕入れた海苔に異変がありました。
(店で使っている海苔の残りが少なくなってきたら予め海苔屋さんへ連絡して持ってきてもらいます)
そろそろ次の海苔の準備をしておこうと数日前に仕入れた海苔の包みを開けてみると色も香りも艶も無い、明らかに質の悪い(質が落ちた)海苔が出現しました。

「あれ?え?なんだコレ??」今まで(通常)とあまりにも違いすぎる状態に困惑します。直ぐ様海苔屋さんへ電話します。
私「あの、先日入れてもらった海苔、今までと全然違うんですが・・・」
海苔店「あ~、えぇそうなんですよ・・・。今年は海苔の出来がとても悪くて・・・」
私「あ、そうでしたか、少々お話を伺いたいので明日そちらへお邪魔しても?」
海苔店「わかりました」

翌日店の休憩時間に海苔屋さんへ向かいました。
もちろん手ぶらで行くわけにはいかないので弊店の【海苔巻き・たまご】の折詰を一つ拵えて持参します。

そして海苔屋さんで色々とお話を伺ってとても勉強になったのですが、そもそも弊店で使用している海苔は千葉の富津などで養殖している海苔だそうです。
所謂アサクサノリというもの・・・ですが、本来アサクサノリというのは品種のことを指し、他にもスサビノリなどの品種があります。その辺は別のサイトにお譲りするとして、今では焼き海苔全体を浅草海苔と称するようです。

わざわざ海苔屋さんまで乗り込んで話を伺ったのは弊店に納められた海苔の質が悪かったのは何故なのか?
値段据え置きにしたため質が落ちたのか、海苔一枚あたりの値段を上げれば今までと同品質の海苔が手に入るのか、が大きなポイントです。

結論から言えば今回の納品は納入価格据え置きのための結果だったようで、仕入れ値を上げれば今まで通りの品が手に入ることが確認でき、胸をなでおろしました。

亡き父が生前口を酸っぱくして再三私に言っていたことは「店の経営が苦しくなって魚の仕入れ値を抑えるために安い魚を買うようになっても、決して海苔の質だけは変えてはいけない。
海苔だけは常に良いもの、今と同じものを使え。
鮨における海苔は店の味を左右する大事な役回りだ」ということです。

今回の件で父の言葉を強く思い起こしたのは言うまでもありません。
結果、海苔屋さんには大変お手数をお掛けすることになりましたが、早急に今までの品質の海苔を納めていただくことをお願いして店を後にしました。

後日海苔屋さんが納品に来た時に「あの時頂いた折詰の海苔巻きは・・・それぞれ違う海苔で巻いたのですね?」とおっしゃられて
「お気づき頂けて幸いです、仰る通り今までの海苔と今回の質の落ちた海苔それぞれで巻きました。それほどまでに質の違いを、弊店における海苔の大事さをご理解いただきたく生意気なことをいたしました。」

海苔を扱っている方に対して試すようなことをするのは忍びなかったのですが、必ずや分かっていただけると確信しての行動でした。
違いが分かるのは当然だと思います。

納品の際に「前回納めた質の悪い海苔は・・・引き取りましょうか?」と申し出ていただきましたが、引き取って頂いたところで海苔屋さんの方も始末に困るのは自明の理ですので丁重にお断りして弊店で佃煮にでもしようと考えております。
そのうち弊店のお通しに海苔の佃煮が出たら「あの時の海苔?」などといじって頂いて構いません(笑

寿司屋のお金の取れない五つの「り」という言葉が昔からあります。
あがり、しゃり、のり、がり・・・あとは・・・おしぼり?ですかね?
その五つの「り」がつくものたちはお客様からお金を頂戴できないものとなっておりますが、この五つこそが寿司屋における最大で、且つ重要な役割を持っていると考えます。

どんなに高値のネタを持っていても海苔やガリやシャリが不味かったらどうにもなりません。

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