明治36年(1903年)創業の正統江戸前寿司屋です。

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ガリについて

“ガリ”について

鮨屋における重要な品目のひとつである“ガリ”について少々お話をさせていただきます。

ガリとは生姜の酢漬けを言いますが、その形は様々で薄くスライスしてあるものを酢(大抵甘酢)に漬け込んであることが多いです。
店によっては固形(スライスしない形状)で漬け込んで提供する際に食べやすい大きさに切って出すようです。

このガリですが、昨今では自分の店で漬けずに出来合いのものを買い求めてそれを出す・・・ということがほとんどの様です。
しかしながら本来の鮨屋の仕事は、ガリを漬け込むことも大きな割合を占めます、即ち鯖や小肌を酢で〆ることと同様に重要な項目であります。

巷に溢れる出来合いのガリは種類も豊富で様々な仕様がなされています。
色が白か薄いピンクか、味が甘いか甘さ控えめか・・・等々5~6種類ものカテゴリーに分けられて売られています。

本来自分のところで漬け込んで仕込むガリを買い求めるのはどうしてでしょうか?
色々と理由はありましょうが、何よりもガリ(即ち生姜)自体が高値であることが原因の一つと考えられます。
国産の生姜は意外と高値です。
出来合いのガリはそのほとんどが中国大陸からの輸入品を使用して作られます。

そして値段ばかりが要因ではありません。
ガリを仕込むということは存外に手間がかかるのです。
手間暇掛けるということは安価に提供できなくなるという素因になります。
故にチェーン店や安価な店ではそこまで経費をかけられないと判断すれば出来合いのガリを購入して使用するということになります。

鮨屋の力量を量るには卵焼き・・・などという事を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、卵焼きなどの鮨ネタばかりではなく、ガリや海苔等の脇役と思われがちなアイテムにも目を向けてみては如何でしょうか?
ガリが美味しいお店は得てして全てが美味しいと思います。

笹鮨のガリ

さて、弊店の話をしましょう。

弊店では季節ごとに扱うガリ(生姜)の品種が変わります。

初夏(5月頃から7月頃まで)においては「谷中生姜」の新生姜を使います。
谷中生姜・・・現在では勿論東京の谷中で作られてはおらず、殆どが千葉県産となります。
谷中生姜の季節は短くあっという間に終わってしまいますが、この谷中のガリを食べると夏の到来を感じ、その鮮烈な風味と色合い(ピンク色が濃い)が谷中の特徴と言えましょう。
江戸っ子としては誠に馴染みのある味わいで心が躍ります。

この谷中のガリが終わると、晩夏から秋(9月頃から10月月頃まで)に出回るのが「近江生姜」の新生姜です。
近江生姜はその名の通り滋賀県の近江の事ですが、現在は高知県産が主流となっている様です。
谷中に比べて近江生姜のガリを漬けると淡いピンク色に染まります。
そして味わいは谷中の鮮烈さに対してとてもまろやかな優しい味になるのが特徴です。
主観ではありますが、食べていて実に美味しいです。

近江生姜の新生姜の時期が終わり、引き続き晩秋から翌年春(11月頃から翌年4月頃まで)に近江生姜が続きます。
ひね生姜・・・とまではいきませんが“新ではない”というカテゴリーになります。
この時期になると漬け込んでもあまり色が付かず白いままになります。
味も少し辛味が増します。

ここで不思議なのは近江生姜の場合新、生姜の後も引き続きひねものが出回りますが、谷中生姜にはひねものがありません。
あるのかもしれませんが弊店では扱ったことがありません。
これは谷中生姜は育ってくると繊維質が強くなり固くなるということがガリに不向きという事で出回らないと考えられます。

残念ながら現在ではこの二種類のガリ(生姜)しか扱いがありませんが、以前(30年ほど前まで)は更にもう一種類「本物のひね生姜のガリ」というものがありました。
こちらの生姜は「種生姜」とも言われていて繊維が強く辛味もとてもあり甘酢に漬けても口に入れた途端「うわっ!辛っ!」と声が漏れるほどでした。
こちらの生姜が出回るのは年末でした。故に弊店では12月から2月くらいまでとても辛いガリがあったのです。

このとても辛い生姜は生産者が居なくなったため、幻となってしまいました。
とても残念でなりません。

魚にも季節があるように野菜にも季節があります。
生姜も野菜の一種ですのでやはり品種によって季節があるのですね。
弊店ではガリも季節を追って使い分けております。
寿司好きの方であれば、寿司ネタの他、ガリや海苔など脇役と思われがちなモノにも目を向けてみては如何でしょうか?

余談ですが弊店のガリは魚河岸の八百屋へ「ガリお願いします」と注文を入れるとその八百屋がより良い生姜を競りで落とします。
その生姜を魚河岸の中にある“スライス屋”へ持ち込んで「いつもの神田の鮨屋だよ、薄目にね」などと注文をします。
その“スライス屋”がスライスしたものを再び八百屋へ戻し、それが弊店に来るわけです。
それを下処理して独自の味を付けたのが弊店のガリとなるのです。

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