明治36年(1903年)創業の正統江戸前寿司屋です。

  1. ホーム
  2. 独りゴチ
  3. 醤油より旨い?江戸前の知恵・煎り酒がグルテンフリーだった話

醤油より旨い?江戸前の知恵・煎り酒がグルテンフリーだった話

修業時代の記憶

店主である私が日本料理店で修業をしていた頃、修業時代に出会ったのは「煎り酒」という調味料でした。

修業当時、親方に「なんで今は煎り酒って使われないんですか?」そう問うと、「不味いからだろ」ときっぱりと言い捨てられました(苦笑)。

当時は「そうですか? 不味いですか?」などと反論しようものなら鉄拳が飛んでくる時代でしたので(現在はそんなことはありません、とても優しく丁寧な指導がなされています)
心の中では「いや、そうとも言い切れないのでは」と思いながら、黙って作業に戻った記憶があります。

修業を終えて実家の鮨屋に戻り、改めてカウンターに立つようになると、ふと気になることがありました。
白身魚や生イカのような繊細な味の魚に、強い醤油をつけて食べることへの、どこかしらの違和感です。
醤油のような力強い調味料が、繊細な魚の味を覆ってしまっているような気がしてならなかったのです。

煎り酒とは何か

煎り酒は、醤油が一般化する以前——醤油が広く台頭してくるのは江戸時代後期のことです——から使われてきた、日本の古い調味料です。
酒に梅干し、鰹節、昆布を加えて煮詰めて作る、実に素朴なものです。

もちろん醤油は日本料理に欠かせない素晴らしい調味料ですが、魚の種類によっては、もう少し穏やかに旨味を引き立てるものがあってもいいのではないかと常日頃、思うようになりました。

そこで思い出したのが、修業時代に知った煎り酒でした。

それ以来、酒・梅干し・鰹節・昆布だけを使って、店で煎り酒を自作しています。
余計なものは一切入れていません。
醤油のように前に出てくるのではなく、梅の酸味と出汁の旨味がふわりと魚に寄り添う——魚の味を邪魔せず、そっと引き立ててくれる調味料だと思っています。

グルテンフリーとの出会い

そんな折、お客様の中に「グルテンフリー」の食事を求めている方がいらっしゃいました。
理由を伺うと、アレルギーで小麦を控えているとのこと。
そこで私はふと気づきました。

「煎り酒は、グルテンフリーではないか?」
鮨ネタの中には醤油を使うものも確かにありますが、すべてではありません。
むしろ全体から見れば一部です。

最近は「グルテンフリー醤油」も市販されていますが、せっかくなら既製品を用意するより、昔ながらの煎り酒を自分で仕込んでお出しする方が、鮨屋としてはよほど価値があるのではないかと思いました。

結果として、当店では白身魚やイカなど、相性の良いネタには煎り酒で召し上がっていただくことがあります。
味のためでもあり、結果としてグルテンフリーにもなっています。

昔の知恵というのは、案外いまの時代にも自然と合ってくるものだなと感じています。
もしご興味のある方は、お気軽にお尋ねください。
煎り酒のお話も、少しさせていただきます。

【参考】醤油の歴史について詳しくは、キッコーマン「醤油の歴史ページ」をご参照ください。(https://www.kikkoman.co.jp/enjoys/soysaucemuseum/history.html)

関連記事