明治36年(1903年)創業の正統江戸前寿司屋です。

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〆物について(夏のネタ)

寿司屋の夏

寿司屋の夏は「夏なのに冬の時代」です。夏はネタが一番少ない時期です。
現代では、寿司ネタとしては考えられないようなモノも登場しており、本来「江戸前鮨」では使われなかった魚介(特に貝類)が使用されております。

寿司ネタ その1:鯵/じんた

当店では夏は「鯵」を〆ます。
夏に「鯖」や「こはだ」は使いません。
魚河岸では一年中流通していますが、本来冬の魚である「鯖・こはだ」は季節を外れているわけですから美味しくありません。
美味しくないと思っているものは、お出しできませんので、夏でも鯖やこはだが食べたい人は当店へ来ないほうが宜しいですね。

さて「鯵」ですが、昨今では生(たたき)で提供することが多いですが、本来の正統な江戸前寿司ネタはきっちりと〆て提供いたします。

「鯵」に関してはただ〆ることだけではなく、〆る前の下処理が大変重要です。
寿司、特に握り寿司においてはその見た目の姿が美しくなければいけません。
見た目も考慮すると「鯵」を仕込むときに「ぜいごけ」と言われる鯵独特の硬い鱗があり、包丁で上手に取る必要があります。
その際に「皮までズル剥けてはイケナイ」のです。

ぜいごけの部分を包丁ですくように切り取るのですが、これが非常に難しいです。
魚の血合い部分にあたるので皮まで一緒に切り取ってしまうとその血合い部分が見えてしまって様子(格好)が悪くなります。
皮を引きずらずにぜいごけだけを上手く取る事に集中するのですが、上手にできるまでには結構時間(年季)がかかります。

現代のすし屋で〆た鯵がでないのはこの下処理が面倒くさいからだと思います。

因みに〆る鯵の大きさですが、大体60gです。このサイズで片身で握り一貫付けです。80gだと大きいですね。

さらに言えば一匹30gの小あじ(魚河岸では豆あじと呼称)を「じんた」といって重宝します。
こはだで言うところの「新子」ですね。この「じんた」を仕込むのがこれまた一苦労です。

とても小さいし、やわらかい。まさに「皮がずる剝けやすい」のです。
そして「じんた」サイズの鯵は量り売りしてくれません、必ず箱売りです。
そうしますと一箱だいたい80~100匹入ってます。

これを全て〆るとなると大変です(苦笑)
(その苦労が報われるくらい美味しいネタとして生まれ変わるのですから、仕込みの醍醐味というか寿司職人としての楽しみですね。)
YOUTUBEの動画にてご確認ください。


寿司ネタ その2:しまあじ

その昔、当店のご常連が別の寿司屋に行ったときに「〆た しまあじ」を注文したそうです。

その際、店のご主人に「しまあじなんて高級魚〆るわけない」と無下にされたそうです。
その店の主人はしまあじを〆るということをご存じなかったのですね。

そういう当店も実はしまあじを昔から(初代のころから)〆ていたわけではありません。
寿司好きな古株のご常連が「この本にしまあじの〆方が載っているからやってみてくれ」というご要望にお応えして、とても良かったので常態化したのです。
〆る魚には丁度良い大きさというものが必ずあります。
「しまあじ」の場合600g~800gくらいでしょうか、900gになると生で提供したほうがよいです。
何故ならしまあじは大きくなればなるほど脂が強くなるので〆づらくなります。

一度だけ1kg超えのしまあじを〆たことがありましたが、中々塩が入っていかず、また尾身の方と真ん中辺りの身との〆たバランスが悪くて問題が山積でした。
故に前述の大きさに落ち着くわけです。

因みに500g以下だと味的に美味しくありません。〆方はやはり鯖等と同様です。
〆ると言うこと(仕事)に難しいことは一切ありません。

それぞれの魚の下処理では難しいことや面倒なことは多々ありますが、”〆る”という作業はどんな魚でも同じです。
その魚の大きさや脂の乗りなどを勘案して塩の時間や量、酢に漬ける時間などの違いはあります。
〆た「しまあじ」、如何ですか? 是非お試しください。

寿司ネタ その3:太刀魚

本来夏場の〆モノは「あじ/じんた」だけでした。
そこに「しまあじ」が新規参入したので二種類になりました。

しかし”〆モノ好き”な当店のお客さまから「二種類だけではつまらない、もっと増やせ」というご要望を多く頂くようになりました。

そこで色々と考えた結果、提供をはじめたのが「太刀魚」です。
「太刀魚」も夏の魚の代表格なので上手くいきそうだと思い〆たのです。

結論から申しますと大変美味しかったです。 しかしながら持たない(保存がきかない)。
扱いが非常に難しい魚だと言うことがわかりました。
そして魚河岸での卸値も馬鹿になりませんでした。
ということで費用対効果といいますか、仕入れ値と仕事量とその後のことを相対的に考えた末、幻のネタとなってしまったのです。
もう少し考慮の余地はあったかもしれませんが、それを考えるのは後継者に託したいと思います。

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