明治36年(1903年)創業の正統江戸前寿司屋です。

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〆物について(その他のネタ)

〆物について(その他のネタ)

春・夏・秋ときていよいよ冬の〆ものを書こうと思ったら、意外と「秋~冬~春」というのが一つの流れになっていて特別“コレが冬!”というものもなく・・・。

秋の項でも記しましたが、鯖・小肌等は秋が“走り”で冬が“旬”(盛りとも言います)、そして春が“名残”となります。
これをぶった切って説明するのは少々乱暴というか到底無理な話でして。

ということで、今回は“その他の〆もの”と題して書き連ねてみましょう。

鱚/きす

季節は初夏と思って取り扱っております。
(2022年現在、海の中の様子は色々と変わってきているようですので、断言できないところがもどかしいです)

釣りをなさる方にはお馴染みの魚ですね。
魚河岸で主に流通しているのは「シロギス」です。
たまに「アオギス」を見かけることもありますが、仕入れをすることはありません。

こちらの魚も江戸前として昔から獲れていましたし、盛んに使われていました。
天ぷら屋さんでも鱚は代表格のネタですよね。

鱚を昨今の寿司屋では“昆布〆”にして出すところがあるようですが、それは違います。
一つの手法としては構いませんが、決して江戸前鮨の手法ではありません。
塩と酢のみで〆ます。

最近(ここ5年くらいでしょうか)では、丁度良い大きさの鱚が手に入りにくくなっていて悩ましいです。

片身で握り一貫分が理想です。
こちらを握るときには“芝エビのオボロ”を咬ませて(忍ばせて)握ります。
勿論“芝エビのオボロ”は弊店で自作してます。
実は“芝エビのオボロ”を咬ませる〆ものネタは鱚の他春子、細魚、エボダイ等があります。

鮎/あゆ

季節はやはり初夏・・・というか梅雨時・・・いやもっと言えば6月の月間限定ネタです。
弊店HPの「神田笹鮨について」という項目に華屋与兵衛の鮨絵が掲載されておりますが、この鮨絵の右上にあるのが“鮎の姿鮨”です。
弊店ではこの絵とほぼ同じ姿で提供しております。

鮎も酢で〆ております。
「鮨屋の仕事は春子鯛が仕込めたら一人前」などと言われておりますが、弊店の感覚からしますとこの“鮎の姿鮨”の方が数段難しいと思っております。

〆方は相も変わらずその他の魚と同様ですが、下処理がとても煩雑で正直言って「面倒くさい」です(苦笑)
しかしこの“鮎の姿鮨”、やっている寿司屋は皆無でしょう。
鮎といえば塩焼きというような世の中ですからね。

余談ですがこの“鮎の姿鮨”を6月の期間限定としているのには理由があります。
二代皛次が川魚釣りが趣味で毎年6月は鮎や山女魚を釣りに行っておりました。
その皛次が亡くなったのも6月なのです。

第二代主人に敬意を表して、弊店では6月を“鮎の姿鮨”月間として毎年ご提供しております。

海老/えび

季節は問いません。
通年で海老を酢で〆ます。

現在は冷凍技術が格段に進歩しているので、酢〆にする海老は輸入の冷凍エビを使います、いわゆる“メキシコ”と寿司屋業界で呼ばれるものです。
こちらのネタもやはり華屋与兵衛の鮨絵に載っています。当時のことですから当然酢で〆ているものと推察されます。

では、当時は冷凍エビが無かったわけですからどんな海老を〆たのでしょう?
答えは簡単で贅沢にも“車海老”でした。

これを知った弊店ご常連が「一度車海老を酢で〆てくれ」とリクエストなさいました。
正直気が乗らなかったのですがそこはそれ、職人魂にちょっとだけ火が入っちまったんです。
で、作りましたよ(苦笑)

結果は・・・大変美味しかったです!
これをきっかけに弊店では“並みの海老甘酢〆”と“上の海老甘酢〆”の二つが存在することになってしまいました(苦笑)

因みにこの“海老の酢〆”だけはかなり甘みを感じるくらい甘酢に漬け込みます。
弊店の酢〆ネタの中では異例の(異形の?)存在です。
そしてこのネタにも“芝エビのオボロ”を咬ませます。

回転すし屋や通常の寿司屋ではそれこそ輸入冷凍エビや良くて大正海老やブラックタイガーを出すようですが、ただ茹でてあるだけの“茹で海老”であることが多いようですね。

残念ながら茹でっぱなしで美味しいのは“車海老”のみです。
その他のはどうしても味が抜けるというか足らないと感じます。

故に甘酢でしっかりと味を付けるということもあるようです。
味が足らないから甘酢に漬けて味を加えるのに、元々茹でただけで美味しい車海老に甘酢で味を付けたら美味しいに決まってますね。

弊店では“エボダイ”に並ぶ隠れた人気ネタです。是非お試しください。

鯧/まながつお

本来の季節は冬とのことですが、魚河岸では通年流通してます。

こちらの魚を〆るに至った経緯は毎度お馴染みのご常連による「新しい〆ネタ希望」があったからです。

以前夏の〆ネタの項で太刀魚を〆ましたが、幻になってしまったことはお話しました。

そこで次に夏枯れを補強するために選んだのが“鯧”だったのです。

本当の旬は冬ですが、とても高値で手が出ません。
故に少し値段が落ち着く夏を選んで仕込んでみました。

結論から言いますとこれまた美味しかったです。
そもそも鯧はエボダイと身質が似ているので「イケる!」と踏んでいました。
予想が大当たりしたわけです。

しかしながら・・・いかんせん形があまりにも鮨向きではないのです。
握りにするには無駄が多く出てしまいます。

ちらし鮨の〆ネタとして使うには全く問題ないのですが、握り用に包丁を入れるとなると難しい・・・。

こちらは大変美味しいので幻のネタにはしたくないので、いろいろと試行錯誤を重ねないといけません。
頑張ります!